2010年8月11日水曜日

血液培養採取したのはいいけれど・・・

さいたま赤十字病院に私・本ブログ作者が赴任して6年目となります。

さいたま赤十字病院で働き始めた当初、さいたま赤十字病院全体の血液培養採取セット数は・・・

おおよそ月間100~150セット程度で推移していました。

血液培養採取せずに、抗菌剤投与などは日常茶飯事でしたし、”血培2セット採取”なんていうのは夢のまた夢という感じでした・・・

そんななかでも、「なんとかしなくては」という意識のある一部の医師・診療科の先生方が孤軍奮闘して血培2セット採取をされておりましたが、病院全体に広まる気配は感じられませんでした・・・

ブログ作者は、「どうしたものかな?」と思いつつ、とりあえず、最初の2年間はじっくりと「感染症診療の基本的考え方」を院内のスタッフの皆様に啓発していく活動を続けておりました。

感染症診療の基本的考え方がある程度、内科系の先生方、研修医・レジデントの皆様に浸透しつつあるかな?と考えたところで、次のターゲットを「看護師」の皆様といたしました。

さいたま赤十字病院では、血液培養を実際に採取していただくのは、看護師の皆様となるため、看護師の方々にご理解・協力をいただけなければ「血培2セット!」と言っても、言うだけで終わってしまうと感じたからです。
また、看護師の皆様への血培教育については、優秀なICNの協力がいただけたのも大きかったと思います。

看護師の皆様に、「血液培養」の講義をさせていただき、なぜ”2セット4本”採取が必要なのか?について十分な理解を頂いた上で、実際の血液培養採取方法を自作ビデオで見ていただくことを繰り返しました。
(血培採取方法ビデオは、当時さいたま赤十字病院呼吸器内科で働いていた志の高いスタッフの皆様のご協力でスバラシイものができております)

ここまでの綿密な下準備に、約2年ついやしました。

そして、ある日突然「今日から血液培養は2セット4本をスタンダードに!」としてしまいました^^

それからはイッキに「抗菌剤投与前に血培2セット4本採取」という、さいたま赤十字病院の血培文化が浸透していき、お陰さまで2010年7月は月間500セットを越えるまでの血液培養採取数となりました。

突然の「血培業務負荷が」増えたのに、文句ひとつ言わずに日々頑張っていただいた細菌検査室スタッフの皆様には、本当に感謝いたしております。

ここまでは、ただの自慢話になってしまいましたが・・・

じつは、血液培養検査は、”2セット4本”採取がつづけば、いろいろと嬉しい?問題が生じてくるのです。

血液培養では菌が「生えた」のに、菌種の「同定」が困難な菌がしばしば見つかってくるのです・・・

血液培養の検体数が増えれば増えるほど、この”UNKNOWN"な菌の検出問題が全面にでてくるようになります。

あいては「血液培養」から検出されてきた菌です。起因菌である可能性がむちゃくちゃ高いにもかかわらず、「犯人」が誰かわからない・・・こんな恐怖はなかなか経験できませんね(したくもないですが)
戦っている相手=菌種同定困難な菌:をターゲットにして治療することの「イヤ」な感じは経験してみないとわからないかもしれません・・・

では菌種同定困難な菌を同定する方法はあるのか?

じつは、大学病院や感染症研究所、一部の民間検査機関に菌株を送付させていただき、「遺伝子同定」という手法を用いると菌種の同定が可能なのです。

ただし、「手間」と「時間」と「お金」がかかる(らしい)のですが、さいたま赤十字病院では、これは絶対に同定していただかなくては・・・という場合には上記のような施設に菌株を送付して同定していただいております。


ですが、「健康保険」は使用できませんので、病院が検査代金を負担するか、検査実施機関が無償奉仕していただくかしかないのです・・・


患者さんの診療内容に非常に影響する「菌種同定」という検査が、健康保険を使ってひろく一般的に実施できていない状況は、あまりよろしい状況ではないのではないか?と常々考えております。

考えている暇あったら、なんとかしろ!と怒られてしまうかもしれませんが、なかなかさいたま赤十字病院呼吸器内科ブログ作者ひとりのチカラではムズカシイので、こういったことを多くの医療従事者の皆様が機会あるごとに声を上げていただくと、未来には良い方向に向かうのかもしれませんね。

そんなことを以前思い知ったのが、カプノサイトファーガによる敗血症の症例でした・・・

さいたま赤十字病院では、ブログ作者が赴任して以降、2症例Capnocytophaga canimorsus敗血症を経験いたしております。
血液培養をまずは採取することが大事なわかですが(これがないと診断そのものがまず困難)、血液培養が陽性となったにもかかわらず、分離培養そのものがまず困難だったり、分離培養できても同定の段階で?となってしまったりするのがこのCapnocytophaga canimorsusだったりします。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou18/capnocytophaga.html#06
上記厚生労働省のWEB SITEもご参照ください。

上記サイト内の症例数はおそらく、実際の症例数のほんの一握りなのではないかと思っております。

「血液培養」の段階で、そもそも血液培養がなされずに闇に葬られていった症例・・・

せっかく「血液培養」がなされていても、菌種同定の段階で闇に葬られた症例・・・

また、動物咬傷後の抗菌剤投与により血液培養採取にもかかわらず菌検出困難であった症例・・・

さいたま赤十字病院の症例のように、しっかりとした診断がついても、保健所届出疾患ではないため届け出ていない症例などなど・・・

こういったものを合わせれば、かなりの症例数になるのではないかな?と推定しております。

近年、どこの医療機関でも、「血液培養」採取そのものはできるようになっているのではないか?と思っております。

血液培養採取が「あたりまえ」となった次のステップが、検出結果の適正な判断・解釈かと思われます。

そこら辺の血液培養結果を適正にチェックして主治医グループに還元していくシステムが皆様の医療機関にはしっかりとあるでしょうか?

血液培養から「〇〇菌が検出されました!」とだけ報告されて、あとのフォローがなされているのでしょうか?

ここら辺が次の日本の感染症診療レベルアップのポイントかな?と思っております。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

 先生の母校である岐阜大学医学部、病原体制御学部分野の大楠です。血液培養や無菌部位から分離されて、日常検査で同定できなかった菌株をこれまで1,200株ほど解析してきました。江崎教授の研究費を使用させてもらい、無料で解析を継続しておりますが、同定結果が治療に直結するケースでは、今後も解析を続けていきたいと思っています。しかしながら、1施設だけのボランティアでは、限界があることも確かです。
 先生のご推察通り、例えば、C.canimorsusの同定もこれまで約20症例ほど行ってきました。すなわち、感染研が把握している14例を上回るケースが私のところに同定依頼されているのも事実です。なお、最近は、私のところで解析してC.canimorsusと判明した際には、依頼元に感染研へ送付することを勧めております。本菌種もそうですが、血液培養液のサブカルチャーで平板培地に生やすことできないケースがあり、そのような場合には、血液培養液から直接の遺伝子解析で菌種を確定することもあります。よって、菌株として感染研へ届けることができないために、見かけ上、症例数が少なくなることもあります。
 長々と駄文を費やしましたが、患者診療に少しでも貢献できればと思っていますので、お困りに際にはご遠慮なく連絡頂ければと思います。

呼吸器内科 さんのコメント...

岐阜大学医学部 大楠先生
コメント大変ありがとうございます。
菌株や臨床検体そのものからの原因菌種の同定は今後ますます重要性を増してくると思います。しっかりと感染症診療をやろうとすればするほど、その重要性が増して来るものではないかと思います。
一般臨床である程度利用できるように、健康保険の適用、同定検査そのものが可能な検査会社や施設数の増加が必要なのではないかな?と思っております。
今後とも宜しくお願い申し上げます。