「結核」というと、皆様「肺結核」を想定される方々が多いと思いますが、実は結核菌がヒト感染症を起こす臓器は、体中全ての臓器にわたります。
もちろん、侵入門戸としての「肺・呼吸器」感染症が頻度としては多いかと思われますが、「肺外結核」というのもそれなりの患者さんがいることはアタマに置いておかなくてはならないかと思います。
先日の日本呼吸器学会関東地方会で私どもが発表させていただいた演題では:脾臓結核でした
http://www.jrs.or.jp/home/uploads/photos/575.pdf
☆ 病理組織標本の遺伝子検査で確定診断した脾結核の一例
さいたま赤十字病院 呼吸器内科1)、さいたま赤十字病院 病理2)、
岐阜大学 大学院 医学系 研究科 病原体制御学分野3)
「症例は78 歳女性。1995 年にC 型肝炎を指摘。2008 年9 月肝細胞癌を認め、肝部分切除術を施行。2009 年8月、1 年半前より認めていた脾臓の低吸収域が増大。可溶性IL2 レセプター上昇から悪性リンパ腫が疑われ、脾臓摘出術が施行された。脾門部リンパ節、脾実質内にLanghance 型巨細胞及び乾酪壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫を認め、脾臓のパラフィン切片からPCR 法により結核菌と診断した。稀な症例と思われ報告する。」
人間の体中に感染する可能性のある病原体「結核」ですが、感染制御の観点からはヒト~ヒト感染の可能性が最も高くなる「肺・気管支・喉頭」などの結核の早期発見が大切なのでしょうか?
ちなみに、一般的には、「肺結核」よりも「気管支・喉頭結核」の方がより感染が広がりやすいと言われているかと思いますが如何でしょうか?
さいたま赤十字病院呼吸器内科で遭遇する頻度の高い「結核」は「肺・気管支結核」と言うことになりますが、「気管支結核」については、それほど頻度が高くなく、「肺結核」がやはり圧倒的に多いかと思います。
また、たまに「粟粒結核」という全身の血流感染症としての「結核」にも遭遇いたします。
膠原病・リウマチ領域の治療薬や、免疫抑制状態の患者さんで「粟粒結核」の頻度がそれなりにあるかと思われます。
では、本題の「さいたま赤十字病院呼吸器内科ではどのように診断しているか?」ですが、、、
①喀痰症状のある患者さんでは、可能な限り喀痰抗酸菌塗沫・培養検査を実施する
②自覚症状がない患者さんで、胸部画像(レントゲン・CTなど)で肺結核が否定できない場合には、
・早朝空腹時の胃液採取:夜間就寝中に喀痰を意識しないで飲み込んでいるので:呼吸器由来検体の扱いです
・誘発喀痰:3%高張食塩水20mlをネブライザーで吸入して誘発喀痰採取
・胸部画像の定期的なフォローアップ:数週間~数カ月単位で
・参考所見としての「クォンティフェロンTB-2G」検査の実施
③各種臨床状況から「肺・気管支結核」を強く疑うも他の検査で確定診断がえられなければ・・・
・気管支内視鏡検査での組織・微生物学的診断(ただし検査スタッフの結核感染のリスクがあるため、その他の検査でどうしても診断できない時のみに施行)
という感じです。
クォンティフェロンTB-2G(QFT-TB2G)検査は、だいぶ普及してきたように思いますが、クォンティフェロンTB-2G検査「陰性」の肺結核患者さんの経験もしばしばありますし、逆にクォンティフェロン「陽性」の活動性肺結核以外の病期(肺癌など)も経験いたしております。
あとは、肺野の孤立結節影(まあるい病変)で、「結核?」vs「肺癌?」(もしくはその他?)が問題となって、手術切除してみたら「結核」だった(逆に「肺癌」だった)なんて経験もよくいたしております。
得られた検体をどのような検査項目に提出するか?やどのように保存しておくか?も実は大切です。
喀痰や胃液、気管支洗浄液などは
・塗沫:チールニールセン法:さいたま赤十字病院細菌検査室で施行
蛍光法:こちらの方が感度高いですが、当院では外注検査
・培養法:小川培地:試験管の中にライトブルーの斜面培地が入っていてそれに塗布
結果がでるのが結構遅い4~8週間程度:院内で可能
MGIT法:液体培地による方法:小川培地よりも検出スピードが早い1~6程度
さいたま赤十字病院では外注検査
・結核菌の遺伝子を直接検出剃る方法:PCR法など:保険適応の「縛り」がきついため慎重に
(結構保険で「切られる」ことが多いため、喀痰そのものから提出するのはよほど自信があるときのみになります。通常はMGIT培養陽性検査や小川培地陽性検査の「菌株」を用いて遺伝子同定検査を行っていただいております。
組織検体
・病理学的検査:乾酪壊死を伴なう類上皮細胞肉芽腫などの証明:実は結核菌と証明できるわけではありません。。。
・組織の結核菌遺伝子検査:ここで重要なのは、組織の「全部」をホルマリン漬けにしてしまうと、後に「もしかして結核?」と組織結果がでてきてもなかなか遺伝子検査に検体を使うことができなくなってしまいます。なので、「もしかして結核?」ということを頭の片隅においておいて、はじめからホルマリン漬けにしない検体を一部とっておいて、別に保存しておくなどの工夫が必要かと思います。
重要なこと
・喀痰抗酸菌塗沫陽性≠肺結核
・胸部レントゲン所見結核っぽい≠肺結核
という点かと思います。臨床症状・所見、胸部レントゲンなどから「肺結核」を疑い、喀痰などの検体で抗酸菌「塗沫」検査を提出。
結果、「先生!ガフキー2 号です!!」とか言われると、[オーッ結核だな!」と早とちりしてしまうことが、いまでもしばしば見受けられます。。。
しかし、抗酸菌=結核ではありません。。。結核以外の抗酸菌の存在(非結核性抗酸菌といいます)も常に頭に置いておかないと痛い目にあうことがあります。。。
ご意見・ご感想などありましたらコメント欄にお願いいたします。
1 件のコメント:
いつも思うのですが、Tbc-DNA-PCRの胃液の検査は、食物残渣やスライドのキズなどで疑陽性になります。 内科外来処置室で当検査が行われる際に空腹時早朝の条件を満たさず施行されてる方が散見されました記憶があります。 胃液のPCRで陽性でしたので治療を開始しましたとのお返事を戴くと、時に釈然としない日もあります。 QFTもHD施行者は発熱時などには40-60%台が陽性になるとの100人近い解析のデータも「臨床透析」(2009.01)に掲載されています。 by通りすがりの透析医
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