2009年12月11日金曜日

EGFR遺伝子変異検査の重要性

昨日、2009年12月10日木曜日、さいたま新都心にある、ラフレさいたまで開催された

”Astra Zeneca Lung Cancer Workshop”

に参加させていただきました。

総合司会が、さいたま赤十字病院呼吸器内科松島秀和先生

基調講演が帝京大学医学部腫瘍内科の関順彦先生でした。

関先生のご講演をベースに、非小細胞肺癌の治療方針についてディスカッションするという画期的な企画かと思い、参加させていただきました。

初めて、関先生のご講演を拝聴させていただきましたが、スライドの構成、プレゼンテーションなども非常にポイントが明快でわかりやすく、非小細胞肺癌治療とくに”EGFR-TKI"治療とその周辺についての豊富なエビデンスをご教授いただけました。

非小細胞肺癌の治療は、他の腫瘍領域と同様に、治療効果の予測因子としての「遺伝子検査」の重要性がますます高まっております。

非小細胞肺癌の治療方針を決定するのに、現時点でかかせない検査が「EGFR遺伝子変異」検査です。

この「EGFR遺伝子変異」の「有」or「無」(もしくは「不明」)が最初のステップで、これに基づき、内科的な治療方針を決定する時代となっていることを実感いたしました。

もちろん、手術療法が可能な場合には、今でも、「非小細胞肺癌」の治療の第一選択は「手術切除」です。しかし、非小細胞肺癌の病状の進行により、手術困難な症例や、術後の再発症例については、「内科的治療」=「抗悪性腫瘍剤の選択」が大切になります。

「手術療法困難」=「内科的治療」の適応となる非小細胞肺癌では、「EGFR遺伝子変異」の有・無が治療方針の決定に重要なのですが、その理由は、この遺伝子変異があることにより、”EGFR-TKI”という抗悪性腫瘍剤による治療が「全生存期間」=”Overall survival"を延長することがわかってきたからです。

以前、三井記念病院の國頭先生のご講演内容を、本ブログに記載させていただきましたが、肺がんの治療成績の評価の客観的な指標となるのはやはり「全生存期間」=”Overall survival"(OS)ではないかとブログ作者も考えます。

近年、新しい非小細胞肺癌の治療薬が多数登場してきていますが、「イレッサ」や「タルセバ」というような”EGFR-TKI"という作用機序の薬剤については、この「EGFR遺伝子変異」が「明確な有効性の指標となるバイオマーカー」となることがわかってきました。

「EGFR遺伝子変異」が「有」なら、EGFR-TKIといわれる「イレッサ」「タルセバ」を選択することが妥当である可能性が高いということになります。

逆に、「EGFR遺伝子変異」が「無」の場合には、「イレッサ」「タルセバ」の有効性は低下してしまうということになります。

ただし、どのような検査にも「感度」「特異度」の問題があり、この点を抑えずに、上記検査結果を鵜呑みにしての議論はナンセンスです。

最近は、EGFR遺伝子変異の検出「感度」の高い検査方法での、検査が普及してきているため、「偽陰性」の問題は非常に頻度が低なっているようですが、それでも絶対に「ゼロ」になることは考えにくいかと思います。なので、どのような検査でもそうですか、常に「感度」「特異度」の問題は考慮して検査結果を解釈しなければいけないことは十分に心してかかることが必要ですね。

関先生は、ご講演の最後に非小細胞肺癌診療においてのEGFR遺伝子検査について
「測定できない理由を探さず、検体を積極的に採取し、何とかしてEGFR遺伝子変異検査を行うように」

というようなメッセージで締めくくられておりました。

非小細胞肺癌患者さんの「全生存期間」=”Overall survival"を延長すること。

この明確な「目的」を達成するための検査が「EGFR遺伝子変異」検査です。

この検査に使用できる検体についても、ディスカッションで議論されておりましたが、
手術やTBLB組織検体は理想的だが、細胞診レベルでも、おそらく”Class4”以上が検出された検体であれば、EGFR遺伝子検査は可能?というようなコメントもいただきました。
その場合には、気管支洗浄液やブラシや生検鉗子の洗浄液を、-20℃程度で凍結保存しておけば、必要な時に検査が可能というような事をお聞きいたしました。
(上記内容は非常に臨床上重要な内容のため、各施設で検査を依頼する検査会社に必ずご確認ください)

発売からしばらくの間、「イレッサ」は新聞やニュースでかなり「マイナスイメージ」での扱われることが多い時期がありました。

もちろん、「イレッサ・タルセバによる薬剤性間質性肺炎」の問題は、重篤な副作用として常に考慮していかなくてはならないのは事実かと思います。

医学は常に進歩していて、発売当初は全く判明していなかった有効性の指標となる「バイオマーカー」=「EGFR遺伝子変異」の発見は、世の中から消えかかっていた「EGFR-TKI」をまさに「復活」させた偉大な功績なのではないかと思います。

新薬の登場は、ときにこれまで治療が困難な病気を治療可能な病気に「変化」させますが、同時に「未知の副作用」についても十分に注意することが必要です。

ただし、「副作用」ばかりに注目して、「真の有効性」を見失ってはいけないとも思います。

今後も多数の薬剤が開発されていくであろう「肺がん治療薬」。

今後も「より有効」で「より安全」な薬剤の開発が望まれます。     

2 件のコメント:

kresnik さんのコメント...

 先日は、ご相談に載って頂いてありがとうございます。

 髄液で提出して Class IIIで細胞数 100/μl以下の検体で検出された例もあると小耳に挟みましたが、積極的に検査を提出することが大切なのですね。

 イレッサは副作用ばかり報告されますが、適応を選べば、良い薬なのではないかと思っています。

呼吸器内科 さんのコメント...

kresnik先生

いつもコメントありがとうございます。
今回の勉強会でも髄液でのEGFR遺伝子変異検査のお話をされておりました。
細胞診Class2、3でも陽性になる場合もあるとのことでしたので、トライする価値はあるのですが、健康保険の適応が一回のみなので、再検できないのが痛いところです。