皆様、クレブシエラという菌種をご存知でしょうか?
”Klebsiella pneumoniae”とか”Klebsiella oxytoca"なんていう菌名をどこかでみたことがあるかも知れません。日本語では前者は「肺炎桿菌」という名前がつけられていますが、実際には肺炎だけでなく胆道感染症などでも比較的よく分離されてくる菌種です。
この「クレブシエラ」が今後の呼吸器感染症診療で重要な位置を占めるものとブログ作者は考えております。
昨日まで開催されていました、「日本呼吸器学会総会」の発表を拝見していて、市中肺炎の死亡例の検討でこの「クレブシエラ」が原因菌であった場合に死亡例が多いというものを見つけました。
なぜ「クレブシエラ」が市中肺炎の原因菌となると「死亡例」が増えるのか?
おそらく「抗菌剤耐性菌」の問題が背景にあるのではないかと思いいます。
日本でも”ESBL"(基質拡張型ベータラクタマーゼ)というβラクタマーゼを産生する菌種が徐々にですが増えてきていることが確認されております。
この「クレブシエラ」も「ESBL」を産生する菌種があり、このタイプの「クレブシエラ」は通常の市中肺炎のエンピリック治療では「カバーできない」可能性があります。
たとえばクリニカルパスで市中肺炎の経験的治療は
ABPC/SBT+クラリスロマイシン
とされているとします。ESBLを産生しない通常のクレブシエラであればABPC/SBTで治療可能と思われますが、残念ながら”ESBL”はベータラクタマーゼ阻害剤の”SBT”では効果がありません。
そのため、初期治療に失敗してしまう可能性があります。確実に”ESBL”産生クレブシエラに有効な抗菌剤は「カルバペネム系」の抗菌剤になってしまいます。
こうなってくると恐ろしいのは、「市中肺炎でも”ESBL"産生菌問題だからやっぱ「カルバペネム」いっとく?」的な考え方に呼吸器内科医が傾倒してしまわないかということです。
確かにESBL産生菌にも「カルバペネム」有効ですが、そもそも市中肺炎の原因菌の一種ではあってもベスト3には入ってません。しかも、クレブシエラであってもすべてのクレブシエラがESBL産生菌ではないのですから。ここでもしかしたら有効な戦略かと思っているのが、「グラム染色」です。
「グラム染色」でクレブシエラっぽい「グラム陰性桿菌」を認めたら、”ESBL"産生「クレブシエラ」も念頭において抗菌剤を選択できるのではないでしょうか?
エンピリックにはABPC/SBTやCTRXで治療を開始しても、治療効果がイマイチであれば「もしかしたらESBL産生クレブシエラ??」と疑って細菌検査室に結果を早く教えてもらうことなどで対応できるかもしれません。一番問題なのは、「予想できない」ということではないでしょうか?
この「予想できる力」を鍛え上げるために、呼吸器内科のトレーニングが必要なのではないかと思っております。
世界ではもっと「恐ろしい」クレブシエラが登場しております。
”KPC”(Klebsiella penumoniae carbapenemase)というカルバペネム系抗菌剤まで分界する酵素を産生するクレブシエラも現実の世界に現れております。
これからしばらくの間、呼吸器感染症は「クレブシエラ」との闘いになるのではないかと思っております。
今から「予想」して対応できるのと、知らずにビックリするのとでは対応力に大きな違いが出てしまうのでさいたま赤十字病院呼吸器内科ではいろいろと策を練っております。
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