その中で勉強になったのは、聴診所見から「一般細菌性肺炎」といわゆる「異型肺炎」を鑑別するという驚異の方法でした。
これまで、日本呼吸器学会の成人市中肺炎ガイドラインでも「一般細菌性肺炎」と「異型肺炎」の鑑別はいろいろと記載されていましたが、「呼吸音」の聴診所見から鑑別するという発想は見たことも聞いたこともありませんでした。
まず、なぜ「一般細菌性肺炎」と「異型肺炎」を区別しなければいけないか?
それは、抗菌剤の選択が全く異なるからです。
「一般細菌性肺炎」では、肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラクセラカタラーリスなどの細菌による肺炎で、β-ラクタム系抗菌剤(ペニシリン系、セフェム系など)が有効です。これらの抗菌剤は細菌の「細胞壁」にアタックすることにより、抗菌作用を発揮します。人間の細胞には「細胞壁」がないため、基本的にはヒトの細胞には作用せず、こういった点からも安全性の比較的高い薬剤かと思われます。
これに対して、いわゆる「異型肺炎」では、「マイコプラズマ」「レジオネラ」「クラミドフィラ」などのいわゆる「細胞内寄生菌」による感染症のため、寄生されている細胞(マクロファージなど)の内部に入って作用するような薬剤が必要となります。例えば、「マクロライド系」「テトラサイクリン系」「キノロン系」などの薬剤が細胞内寄生菌に対して有効な薬剤となります。ただ、これらの薬剤はヒトの細胞にもある、細胞内器官をターゲットとするため、ある程度副作用の頻度がある薬剤となります(小児や妊娠中に禁忌となっている薬剤もあります)。
このため、「一般細菌性肺炎」と「異型肺炎」を鑑別することは、どのような抗菌剤を選択するかという非常に治療の根幹にかかわる部分で大事なことであるといえます。
この非常に大事な鑑別を「呼吸音」の聴診所見から行おうということなので、非常に興味深い内容でした。もちろん、採血もレントゲンも「無し」です。非常にコストのかからない鑑別診断です。
詳細は”Phasic characteristics of inspiratory crackles of bacterial and atypical pneumoniae"
Y Norisue,Y Tokuda,et al:Postgraduate Medical Journal 4/8/08 2008 Aug;84(994):432-6
をご参照ください。
要点は呼吸音の聴診トレーニングは必要かと思いますが、聴診所見で
・Pan(holo)-inspiratory crackles:通常 うっ血性心不全や肺水腫で聴取
・Late inspiratory crackles:通常、間質性肺炎、早期うっ血性心不全
で聴取する肺雑音をしっかりと聴取できることが必要です。
呼吸器内科のトレーニングをしていれば、「間質性肺炎」のLate inspiratory cracklesはそれほど問題なく聴取可能な気がします。間質性肺炎の患者様で、背部から両側肺底部を聴診して、吸気途中から聞こえ初めて、吸気終末まで聞こえるいわゆる「ベルクロラ音」様のものではないかと思います。
もう一つのPan(holo)-inspiratory cracklesは、うっ血性心不全や肺水腫の患者様で吸気開始時から吸気終了時までに聴取するいわゆる湿性ラ音のことではないかと思います。これもそれほど難しくなく効きなれている聴診所見かと思います。
この2種類の聴診所見で「一般細菌」と「異型肺炎」を鑑別します。
市中肺炎で
・Late inspiratory cracklesが聴取されれば「異型肺炎」の可能性が高く
・Pan-inspiratory clacklesが聴取されれば「一般細菌性肺炎」の確立が高い
というものです。詳細は上記文献を参照していただきたいですが、非常に驚きました。
もちろん、その他の鑑別方法、「日本呼吸器学会市中肺炎ガイドライン2005」や「グラム染色」などをさらに組み合わせれば、もっと「感度」「特異度」の高い鑑別が可能かもしれません。
なぜこれが大事か?問題の背景には、日本では「マクロライド系抗菌剤が肺炎球菌に無効な場合が多い」ということがあるかと思います。頻度として非常に高く重症例も多い「肺炎球菌肺炎」とそれ以外の鑑別が大事なのではないかと思います。
2 件のコメント:
もう15年も前になりますが,当時すでに『はじめからlateが聞こえるのはatypical( pneumonia)です』と教わりました.今でも当然のようにpracticeに用いています.
徳田先生・青木先生が言われた『呼吸器の先生』ですね.
crackle自体は感度も低いうえNPVも微妙ですが,徳田先生のご尽力によりある程度証明されてほっとする以上の喜びでした.
コメントにてお邪魔しました.
鹿児島でも熱病より
コメント大変ありがとうございました。
呼吸器の偉大な先生のお力があったのでしょうか?
もしかして「呼吸器病レジデントマニュアル」の監修の先生でしょうか?
いずれにしてもブログ管理人のまだまだ知らない偉大な人々が世の中には沢山いらっしゃるのでしょう。
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