2009年8月19日水曜日

医療従事者の職業感染と針刺し事故

昨日も、救命病棟24時を見てしまいました。

最後の方で、進藤先生がHIVの針刺し・職業感染症についての映像が駆け足で出ていましたが、一般の方々は良くわからなかったかと思いますので、ブログ作者なりの解説を勝手に加えたいと思います。

まず、医療従事者は皆「職業感染症」のリスクにさらされております。

「職業感染症」とは?簡単にいうと、仕事中に、仕事が原因で起こってします感染症のことになります。
労災認定もされるしっかりとした保証がなされる感染症です。(雇用主がちゃんと労災保険に加入していることが必要かもしれませんが)

なので、「救急外来で新型インフルエンザの患者の診療後、新型インフルエンザに感染した研修医」とかいう事例も「職業感染症」となります。
また、救急病院で非常に多いのが、「結核」の職業感染症です。
救急医療の現場では、「命を助ける」という文字どうり「救命」を最優先するあまり、自分たち
医療従事者の安全」の意識がなかなか育ってきませんでした。そのため、重症だから取り急ぎ入院!!というようなことをやってしまうと、胸部レントゲンの読影がおろそかになり、隠れていた「結核」を見逃してしまう危険性を潜在的にはらんでおります。

ブログ作者は全てのスタッフに、入院を決めるのはいいが、入院する「場所」の決定はかならず胸部レントゲンを読影したあとでとお話いたしております。

万が一、画像上、結核の疑いがあれば取り急ぎ「個室隔離」の対応をとっていただきます。
ホントウに結核であって、しかも、「排菌」されている患者の場合には、さいたま赤十字病院では対応困難なため、結核専門病院に転送することになります。

今回の、「針刺し事故」ですが、結構な頻度で病院内では発生いたしております。

気をつけていても、なかなか「ゼロ」にはならないものです。

なので、イザというときに「パニック」にならないように今のうちから対応を覚えておいていただきたい事項になります。

針刺し事故が起こったら?

まず、針刺し事故をしてしまった本人は非常に「ショック」を受けております。決して責めるような言動はつつしみ、暖かく、見守ってあげてください。
①まず、指した部分を水洗いします。
②相手患者の感染症検査結果のチェック:通常HIV、B型肝炎、C型肝炎、梅毒、±HTLV1
③自分の感染症状況把握するための感染症採血
④もし、相手患者がなんらかの感染症があった場合には、各施設に備わっている針刺し事故マニュアルのようなものを参考に対応

ここで、大事なのは、「ワクチンで予防」できる針刺し事故感染である「B型感染」は必ずワクチン接種しておくことです。
ワクチン接種してもB型感染の抗体価上昇が得られなければ、γグロブリン製剤の使用となります。

また、「HIV」についても、針刺し事故後にすぐに、抗HIVウイルス薬を内服し始めることが推奨されております。テレビでは、2時間以内と言っていましたが、チョット古い情報で、今では「なるべく早く」と推奨されております。予防内服にしようする薬剤は、HIV領域の劇的進歩があるため、少しづつ換わっておりますので最新のデータをご確認ください。

C型肝炎については、残念ながら予防方法が無い状況です。定期的な採血検査で経過を追っていき、もし感染していたらインターフェロンなどでの治療となります(労災保険でできることになっております)

なお、針刺し事故での各感染症の感染率は是非記憶しておくことをお勧めいたします。
(以下簡単に覚え易いものを記載します)

B型肝炎 → 30%
C型肝炎 → 3%
HIV    → 0.3%

4 件のコメント:

新里 敬 さんのコメント...

勉強になりました。1点質問です。
針刺し事故時の相手患者の感染症スクリーニング検査で梅毒は必要でしょうか。私の知る範囲では、針刺し事故で梅毒が感染することは非常に稀です(1例だけ報告はありますが…)。
Franco A, et al: Infez Med 2007;15:187-190. PMID 17940403
可能性がゼロではない限り含めるべきなのか、悩ましいです。

呼吸器内科 さんのコメント...

新里 敬様

コメントいただきまして大変ありがとうございました。
梅毒については、各種マニュアルや職業感染症のガイドライン、CDCの勧告などでも多くは触れていないように思います。
理由として、海外では、万が一梅毒に感染してしまっても、有効な治療薬(ペニシリン筋注製剤など)があり、治療がそれほど難しくないからではないでしょうか?
それに対して、日本には、梅毒の有効な治療薬とされるペニシリン筋注製剤が無いのが辛いところかと思います。
一部の教科書には梅毒患者さんでの針刺し事故では、アモキシシリン内服などの記載があるものもあります(エビデンスは明確なのかはわかりませんが)
もう一つ、梅毒を検査する理由は、「労災保険対策」としてものもです。
万が一、後に「梅毒」に針刺し事故などで感染してしまっても、針刺し事故時点で「梅毒陰性」の結果がないと、労災保険が降りない可能性があるかと思います。

上記を考慮して、さいたま赤十字病院では「梅毒」の検査を職業感染症の採血項目にいれております。
ご参考になりましたら幸いです。

新里 敬 さんのコメント...

早々とご回答いただき、ありがとうございました。
やっぱり悩ましいです。
多くの場合、「希望時のみ」とか「一律に行うのは?」と記載があります。HTLV-1も同様ですが…。
http://www.kansensho.or.jp/sisetunai/2008_3_pdf/21.pdf(感染症学会Q&A)
http://www.kms.ac.jp/~mrsa/manual/2.pdf(香川大学感染対策マニュアル)
労災絡みだとそうならざるを得ないのでしょうかね。もう少し調べてみます。

呼吸器内科 さんのコメント...

新里 敬様
再度コメント大変ありがとうございます。
先日、当院でも梅毒の針刺し事故がありましたが、結局AMPCの予防投与などは行いませんでした。
これは、梅毒の針刺し事故の感染確率が極めて低いこと。AMPC内服による、下痢などの副作用の可能性がそれなりいあることから、該当職員の自己判断で予防内服行わなかったものです。
ただし、確率がゼロでは無い可能性がある以上、労災保険などのために、梅毒の採血検査は、対象患者さん(事前に確認)当該職員ともに施行させていただいております。
採血検査そのものは、それほどコストもかからず、すぐに出来る検査ですので、梅毒の感染症検査自体は行って良いのではないかと考えて当院の方針とさせていただいております。
また、いろいろとコメントいただけましたら幸いです。
なかなかエビデンスは無い世界のためむずかしいですね。